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?今日は「ケータイコミックで使われそうな技術と、画像処理における最新の研究成果」というタイトルで、早稲田大学博士課程の河村さんにお話を伺いました。以前、コンテンツ産業におけるケータイコミック(デジタルコミック)の立ち位置に関して、社会的な見方からの発表をいただきましたが(参照)、今回は技術的な面からの発表でした。ケータイ、デジタルコミックが様々な面から注目を集めていることが分かります。
河村さんは「既存のアナログ画像コンテンツをケータイコミックに適したデータ形式に変換する」研究をされています。紙で出版されることを前提にして描かれたこれまでのコミックを、ケータイの小さな画面で閲覧するためには、処理するべき事柄が多くあります。
紙に書かれた漫画の原稿をそのままスキャンするだけでは、原稿はただのA4の一枚の画像として認識されてしまいます。その画像を、「コマ割り、描線、テクスチャ(ベタの部分など)、ドット(スクリーントーンの部分)、せりふ」に分割してデジタルデータ化していきます。
コマ割りを認識させることで、一コマずつしか画面に表示できないケータイコミック向けに、どの順番でコマを表示させていけばいいかを決められます。
また、画像部分を描線、テクスチャ、ドットに分割処理することで、一枚の画像だとデータ量が重すぎてしまったものを整理してコンパクトにすることができます。
また、せりふを抽出することで、例えば「日本語→英語」の変換を自動処理することが可能になり、コミックの海外展開が容易になります。
このように、漫画のアナログデータをデジタルに適した形式に変換することは、コミック配信にとって必須の技術と言えます。
しかし、それぞれの過程でさまざまな課題があります。
描線の抽出では、単に切り出しただけでは拡大するとジャギーが入って画像が荒くなってしまいます。そこで、描線の「ベクターイメージ化」を行います。ベクターイメージとは、PCソフトで編集できる描線の形式で、illustratorなどのソフトで用いられています。簡単に言えば、アナログの線をデジタルデータ化してしまいます。「画像」から「データの線」に変換することで、拡大にも耐えるデータになります。
また、ドットは周期性を持った点の集合体であり、縮小を行った際にその規則性のせいで画面が正しく表示されないというエラーがおこります。また、ベクターイメージ化したときにドットの1つ1つを認識してしまうとデータ量が膨大になるという問題を持ちます。
そこで、河村さんはドットをグレースケールのカラー情報に変換する技術を開発されました。そうすることでドットが領域情報と色情報のみに変換され、縮小してもエラーが出ない、情報量の軽いデータになります。
途中、「台詞はどうやって文字として認識するのか」という質問が出ました。河村さんの用いているアルゴリズムでは、「縦横に画面をスキャンして、規則性を持って空白を有するパターンがあった場合、それを文字列と見なしてデータと対照して文字データにしていく」という方法だそうです。
ケータイコミックをご覧になった方は分かると思いますが、ケータイコミックは小さな画面でコマを1つ1つスクロールして、小さな書き文字などはその都度ズームアップして、という細かい動きがたくさんあります。どのようにスクロールさせるか、どこでズームアップするかは、実はこれまでは人間がアナログの漫画をスキャンして1つ1つ手作業で決めていっていました。
そして、出版社との関係もありますが、データ配信可能なコミックの処理は既に人間の手によって完了しているという話もあります。
しかし、そのデータ化はローカルルールに縛られていて汎用性が少なく、バックアップも十分ではないという課題もあります。
やはり、自動でできるアルゴリズムは必要であると考えられます。
発表の後、みなさまいろいろな感想をお持ちでしたが、一番印象に残ったのは「デジタルデータ化していくことで要素の抽出が可能になり、例えば手塚治虫の復活が可能になるのではないか」というご意見でした。
現在でも、声をデータ化して解析することで、過去の人間の声を再現し、また好きなようにしゃべらせることができます。
漫画でも将来的にはそのような手法が可能になるのではないか、と期待されます。
デジタルコミック市場の発展は目覚ましく、現在はケータイ配信が主流ですが、別のインターフェースが上梓されたらまたあっという間に構造は変化していくでしょう。技術的には、デジタル化の波は止められないし、ものすごいスピードで発展していくと思います。
ネックは、技術ではないところにあります。出版社、版権、海賊版の問題、コンテンツの政治利用、その他、社会的なインフラの整備が大きな課題になってくるでしょう。
素晴らしい技術がちゃんと生きるような、そんな環境にするためにも一人一人が関心を持っていく必要があるなと思いました。